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「正しさ」を届ける前に、その日の気持ちを知る。
廣瀬公昂トレーナーが失敗から見つけた“寄り添う指導”

廣瀬公昂
eviGymトレーナー 廣瀬公昂

バスケットボール、水泳、キックボクシングと、子どもの頃から身体を動かすことが身近にあった廣瀬公昂(ヒロセ コウヨウ)トレーナー。
美容やボディメイクを通して自分に自信を持てるようになった経験から、「今度は自分が、誰かの変化を直接支えたい」とトレーナーの道を選びました。
しかし、実際に現場へ立つと、正しい知識や効果的なメニューを伝えるだけでは、お客様にとって本当に良いセッションにはならないことを実感します。
今回は、廣瀬トレーナーの運動の原点や転職のきっかけ、忘れられないお客様との経験、そして今の指導で大切にしていることについて聞きました。
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特別に何でもできたわけではない。それでも、身体を動かすことが好きだった

――子どもの頃、体育や部活動ではどのようなタイプでしたか?

廣瀬:身体を動かすこと自体は好きでしたが、何でも得意なタイプではありませんでした。長距離や短距離が特別速いわけでも、水泳が飛び抜けて得意だったわけでもありません。競技の中では、部活動で続けていたバスケットボールが一番得意でした。
バスケットボールを始めたきっかけは、友人に誘われたことです。そのまま続けていくうちに、自分にとって一番長く親しむスポーツになりました。今も時間があるときはストリートコートや体育館へ行き、その場に集まった人たちとバスケットボールをしています。

――当時、自分の強みだと感じていたことはありますか?

廣瀬:柔軟性は比較的高かったと思います。体力測定でも、長座体前屈だけは特に良い評価をもらっていました。
小・中学生の頃に水泳とキックボクシングをしていて、そこでストレッチを習慣的に行っていたことが影響しているのかもしれません。キックボクシングは、テレビなどで見て「かっこいい」と感じ、自分からやってみたいと思って始めました。

目標が見えないときは、自分の現在地を確かめにいく

――運動から逃げたくなったり、途中で諦めそうになったりしたことはありますか?

廣瀬:完全にやめたことはありませんが、モチベーションが下がる時期はありました。特に、大会まで期間が空いていて、はっきりした目標がないときは気持ちが緩みやすかったですね。
そんなときは、友人と1対1をしたり試合に参加したりして、自分が今どのくらいできるのかを確かめるようにしていました。勝つこともあれば、もちろん負けることもあります。そこで「このままではいけない」と気づくことが、もう一度頑張るきっかけになっていました。

――その経験は、今の仕事にも生きていますか?

廣瀬:生きていると思います。自分の力をほかの人と適切に比べることで、現在地が分かります。スポーツだけでなく、仕事の進め方やタスクの処理でも同じです。
ただ、比べすぎると気持ちが苦しくなってしまうので、必要以上に落ち込まない範囲で上手に比較することを意識しています。今の自分に足りないものを知り、次に何をすべきか考えるための判断材料として捉えています。

自分が自信を取り戻した経験を、今度はお客様へ届けたい

――トレーナーという仕事を意識したきっかけを教えてください。

廣瀬:前職は美容に関わる会社で、店舗出店のサポートなどをしていました。もともと美容やボディメイクを通して見た目が変わり、自分に少しずつ自信を持てるようになった経験があったので、同じように誰かの自信につながる仕事がしたいと思って入社しました。
ただ、実際には希望していた店舗出店の仕事が少なくなり、次第に周辺業務が中心になっていきました。その中で、「もっとお客様と直接関わり、自分の言葉で伝えられる仕事がしたい」と考えるようになったんです。
そこで、自分の経験も生かしながらお客様の変化を近くで支えられる仕事として、パーソナルトレーナーを目指しました。2025年の夏頃から転職活動を始め、9月にeviGymへ入社し、11月にトレーナーとしてデビューしました。

トレーナーが正解へ導くのではなく、お客様に合わせて正解をつくる

――トレーナーになる前のイメージと、実際に現場へ立ってからの違いはありましたか?

廣瀬:かなりありました。以前は、トレーナーが間違いをはっきり指摘し、お客様を正しいフォームへ導いていく仕事だと思っていました。どちらかというと、厳しく指導するイメージです。
でも実際は、トレーナーの考える正解にお客様を合わせるのではなく、こちらがお客様に合わせる場面の方が多いと気づきました。
同じ種目でも、その方の身体の状態によって適したフォームは変わります。運動の頻度も、生活スタイルに合わせなければ続きません。その日の気持ちによって、必要なトレーニングが変わることもあります。
トレーナー主導で進めるのではなく、お客様を中心に考えて内容を組み立てる。それがパーソナルトレーナーの仕事なのだと、現場に立って初めて分かりました。

喜んでもらえた指導にも、今振り返ると改善できることがある

――デビュー直後に担当したお客様で、印象に残っている方はいますか?

廣瀬:「脚を細くしたい」というお客様が印象に残っています。当時は、ヒップアップによってお尻の位置を上げ、脚を相対的に細く長く見せることや、ワイドスクワットなどで内ももへアプローチすることを中心に考えました。トレーニングを喜んでいただけたことは、今でもよく覚えています。
ただ、今振り返ると、お客様の骨盤の向きや姿勢まで丁寧に評価したうえで、メニューを組み立てることができたと思います。
骨盤の傾きによっては、前ももが張りやすく、裏ももやお尻をうまく使えていない場合があります。反対に、裏ももの緊張が強くなっていることもあります。そうした身体全体の状態を見たうえで必要な部分を緩めたり、使えていない筋肉へ働きかけたりすれば、より早く、見た目にも分かりやすい変化をつくれたかもしれません。
当時は喜んでいただけましたが、「うまくいったから、それで十分」とは考えないようにしています。今の知識と経験で振り返り、もっと良い方法がなかったかを考えることが、自分の成長につながると思っています。

お客様のための“正しさ”が、押しつけになってしまった

――「自分はトレーナーに向いていないかもしれない」と思ったことはありますか?

廣瀬:あります。毎週、決まった曜日と時間に担当していた女性のお客様が、ある時から来られなくなり、同じ店舗・同じ時間帯の別の曜日へ予約を移されたことがありました。結果的に、担当するトレーナーも変わりました。
その方の目的は、身体の左右差の改善と健康維持でした。身体を評価し、硬くなっている部分や偏りについて説明したうえで、必要だと考えたストレッチや運動を提案していました。
ただ、今振り返ると、身体の状態ばかりを見て、お客様ご本人の状態を十分に見られていなかったと思います。
その方は仕事を終えた19時、20時頃に来店されることが多く、かなり疲れている日もありました。それでも僕は、左右差を改善するためには必要だからと、元気なときと同じように6種目ほどのメニューを進めてしまいました。疲労度をきちんと確認しないまま、「目標をかなえるために、この運動をやりましょう」と押しつける形になっていたのだと思います。
お客様のために良い結果を出したいという気持ちはありました。でも、知識や正しさを優先するあまり、その日にお客様が何を求めているのか、どのくらい動ける状態なのかを置き去りにしてしまいました。
その経験を通して、目標に対して正しいメニューを用意するだけでは不十分だと学びました。仕事帰りに身体を動かしてリフレッシュしたい日もあれば、しっかりトレーニングしたい日もあります。お客様の目的だけでなく、その日の気持ちや余力まで含めて受け止める必要があります。

だから今は、身体と気持ちの両方を確認してから始める

――その経験以降、指導で変えたことはありますか?

廣瀬:今は、セッションの前に睡眠時間や食事だけでなく、前日や直近にどのような運動をしたかも確認しています。さらに、「今日は元気がありますか」「どのくらい動けそうですか」「今日はどの程度の強度で取り組みたいですか」と、気持ちや意欲の状態も具体的に聞くようになりました。
同じお客様でも、毎回コンディションは違います。事前に考えていたメニューをそのまま行うのではなく、会話を通して、その日に合う種目数や強度へ調整しています。
以前は、目標をかなえるために必要な内容をすべて提供することが、お客様のためだと思っていました。だから今は、正しいことを一方的に伝えるのではなく、まずその日の身体と気持ちを知ることを意識しています。そのうえで、無理なく前へ進める方法を一緒に考えるようにしています。

一人で判断せず、周囲のトレーナーから学ぶ

――今でも判断に迷うことはありますか?

廣瀬:もちろんあります。迷ったときは、まず安全性を優先し、できるだけリスクの少ない選択をするよう心がけています。その場に相談できるトレーナーがいれば、一人で決めずに意見を聞きます。
普段は、同じ店舗にいる金子一輝トレーナーや石橋宥茉トレーナー、熱田はるなトレーナーなどに相談しています。
特に印象に残っているのは、奥翔太郎トレーナーへ身体の見方について相談したときのことです。反り腰で裏ももが硬いお客様を担当した際、僕は「裏ももは伸ばされているはずなのに、なぜ硬いのだろう」と疑問を感じていました。
そのとき奥トレーナーから、筋肉は縮んだ状態だけでなく、伸ばされた状態でも緊張して硬くなることがあると教えてもらいました。それまでの自分にはなかった視点で、身体の状態を一方向から決めつけずに考えるきっかけになりました。
接客やコミュニケーションについては、本名豪輝トレーナーや小室慶トレーナーの接し方を参考にしています。お客様に合わせた自然なテンションや、接客的になりすぎず、寄り添いながらアドバイスする姿勢から学ぶことが多いです。
トレーナーとして経験を重ねても、自分一人の知識だけで判断できることには限界があります。分からないことをそのままにせず、周囲へ相談し、得た視点を次のセッションへ生かすことも、お客様に対する責任だと考えています。

正しいメニューより先に、目の前のお客様を見る

廣瀬トレーナーが目指しているのは、ただ正しいフォームを教え、決められたメニューをこなしてもらうことではありません。
身体の状態を専門的に見極めること。生活のリズムを知ること。そして、その日の気持ちに耳を傾けること。そのすべてを踏まえて初めて、その方にとって必要なトレーニングが見えてきます。
良い結果を出したいという思いが強いからこそ、正しさを急いでしまった経験がある。その失敗を振り返り、今の指導へつなげている廣瀬トレーナー。
「今日はどのくらい動けそうですか?」という一言には、目標だけでなく、今ここにいるお客様を大切にしたいという姿勢が表れています。
一人ひとりの身体と気持ちに合わせ、その日にできる一歩を一緒につくる。それが、廣瀬トレーナーが現在大切にしている“寄り添う指導”です。