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「上手じゃなくても、楽しいから続けていい」
運動が得意ではなかった兒玉トレーナーが、今も大切にしていること

兒玉 夕喜
トレーナー 兒玉 夕喜

「実は、身体を動かすことは全般的に得意ではなかったんです」
そう話すのは、eviGymの兒玉トレーナーです。
現在はお客様一人ひとりの身体と向き合い、パーソナルトレーニングやピラティスを担当している兒玉トレーナー。しかし、子どもの頃から運動が得意だったわけでも、トレーナーを目指して一直線に歩んできたわけでもありません。
運動が苦手だった学生時代、3人の子どもの出産、異業種での仕事、24時間ジムで感じたもどかしさ。そして、実際にトレーナーとしてお客様を担当する中で経験した失敗。その一つひとつが、現在の指導につながっています。
今回は、兒玉トレーナーが歩んできた道と、セッションで大切にしていることを聞きました。

運動は得意ではなかった。特に苦手だったのは球技

Q. 子どもの頃、体育や部活動ではどのようなタイプでしたか?

兒玉: 身体を動かすことは、全般的に得意ではありませんでした。体育も好きなほうではなく、特に球技が苦手でしたね。ボールなどの道具を使う競技は、今でもあまり得意ではありません。
一方で、走ることは比較的得意で、成績も良かったです。水泳もできなかったので、本当に「自分の身体一つで頑張れるもの」だけは得意だったのだと思います。

Q. ご家族や周囲からは、どのような子だと思われていましたか?

兒玉: 親からは、「手がかからない、おとなしい子」だと思われていました。
三姉妹の真ん中なのですが、姉はスキーも水泳も球技も得意で、とてもアクティブなタイプでした。それに比べると、私は自主的にスポーツをするような子ではなく、どちらかというと内向的でした。
ただ、一人で黙々と何かに取り組むことは好きでした。絵を描いたり、デザインに触れたりすることも好きでしたね。

「できた。楽しい」と初めて思えたバドミントン

Q. 運動に対する印象が変わったきっかけはありましたか?

兒玉: 小学生のとき、クラブ活動でバドミントンを経験したことです。
それまで運動に苦手意識がありましたが、バドミントンは初めて「できた」「楽しい」と思えた競技でした。それがきっかけで、中学校でもバドミントン部に入りました。
ただ、美術も好きだったので、バドミントンをしながら美術部にも所属していました。今思うと、不思議な組み合わせですよね。

Q. バドミントンを辞めたいと思ったことはありましたか?

兒玉: 何度もありました。
私が通っていた中学校は、地域外から強い選手が転校してくるほど、バドミントンの強豪校でした。私は純粋に「楽しいから」という理由で入部しましたが、周りには大会出場や勝利を目指している選手がたくさんいました。だんだん、自分と周囲が見ている先の違いを感じるようになりました。「ここは自分がいる場所ではないのかもしれない」と思ったこともあります。
同じように楽しむために入部した友人たちが辞めていく中で、仲の良い友人から「大会にも出られないのに、続ける意味があるの?」と言われたことがありました。そのときは、「確かにそうかもしれない」と一気に辞めたくなりました。
それでも、私は続けました。
上手ではなくても、大会に出られなくても、楽しいと思える気持ちのまま続けたら、自分の中で何かが変わるかもしれない。その先にどんな景色があるのか、見てみたいと思ったんです。

結果がなくても、「続けられたこと」が自信になった

Q. 続けて良かったと思いますか?

兒玉: 競技の成果だけでいえば、特に大きな結果は残せませんでした。でも、周りと比べずに続けられたことは、自分の中にずっと残っています。
周囲が大会や上達を目標にしている中で、私は「楽しい」という気持ちだけで、一つのことを長く続けることができた。その経験から、「私は周りに流されず、自分で決めたことを続けられる人なんだ」と思えるようになりました。
社会人になってからも、人の意見を聞くことは大切にしています。ただ、誰かに「やめたほうがいい」と言われたからといって、すぐに自分の気持ちまで変えるのではなく、自分が何を大切にしているのかを考えられるようになりました。
この経験は、今のお客様への接し方にもつながっています。運動の目的は、人によって違います。高い目標を持つ方もいれば、楽しく身体を動かしたい方もいます。だから私は、「周りと同じ目標を持たなければいけない」と決めつけず、その方が運動に何を求めているのかを大切にしたいと思っています。

3人の出産を経て、宅トレから運動の世界へ

Q. トレーナーという仕事を意識したきっかけを教えてください。

兒玉: もともとは、スポーツとはまったく関係のない仕事をしていました。食品スーパーの社員として働き、その後、20歳で結婚し、21歳で第一子を出産しました。
当時の職場では、結婚や出産後も働き続ける先輩たちが、つらい状況に置かれている姿を見ていました。そのため、自分は結婚したら一度仕事を辞めようと決め、28歳頃までは3人の子どもの育児に専念していました。
転機になったのは、出産後の身体の変化です。
もともと骨格は細いほうでしたが、3人目を出産した後、骨盤まわりが変化し、それまで履いていたズボンが履けなくなりました。「何か運動をしよう」と思い、当時流行していたYouTubeの宅トレを夫と一緒に始めたんです。
身体を動かすと気持ちがすっきりし、見た目にも少しずつ変化が出てきました。続けていくうちに、運動そのものだけではなく、「身体が変わっていくこと」に楽しさを感じるようになりました。
以前は、自転車で商品をお届けする仕事をしていました。体力の必要性を強く感じていた時期でもあり、運動による変化をより実感できたのだと思います。やがて、「好きになったことを仕事にしたい」と考えるようになりました。
ちょうど自宅の近くに24時間ジムがオープンすることになり、ストアチーフとして働き始めたことが、フィットネス業界に入るきっかけです。

「分からないまま辞めていく人」を、見送るしかなかった

Q. 24時間ジムでは、どのような仕事をしていましたか?

兒玉: 接客や清掃だけではなく、店舗の売上管理、顧客管理、キャンペーンの企画、マネージャーとの打ち合わせなど、店舗運営全般を担当していました。
当時はまだパーソナルトレーニングやマシンサポートのシステムがなく、お客様が自分でマシンを使ってトレーニングする形式でした。使い方が分からない方には声をかけていましたが、十分にサポートできないまま退会していくお客様もいました。
「使い方が分からない方にきちんと伝えられれば、もっと続けてもらえるかもしれない」
そう思いながらも、できることには限界がありました。自分の力不足を感じる場面が多く、会社には何度もパーソナルトレーニングの導入を提案しました。
退会理由などの数字も示しながら提案を続けた結果、退職する少し前にパーソナルの枠ができ、担当させてもらえるようになりました。もっと一人ひとりのお客様に深く関わりたい。その思いが、パーソナルトレーナーを目指す大きなきっかけになりました。

憧れていた世界と、現場の現実

Q. eviGymで本格的にパーソナルトレーナーとして働き始めて、理想とのギャップはありましたか?

兒玉: とても大きなギャップがありました。
働く前は、パーソナルトレーナーに強い憧れがありました。お客様と一対一で向き合い、一緒に身体を変えていく、華やかでキラキラした仕事というイメージがあったんです。
実際に現場へ立つと、決してキラキラしたことばかりではありませんでした。多くのお客様を担当するほど、希望する時間帯が重なります。すべてのご希望に応えようとすると、長時間勤務になり、家族との時間を確保することが難しくなります。私は家族がいるため、仕事と家庭の時間をどう両立するかは、今も悩むことがあります。
また、トレーナーとしてお客様のどこまでに関わるべきか、その線引きにも迷いました。
お客様から「どうしたらいいですか」と相談されると、すべてに完璧な答えを出さなければいけないと思い、仕事以外の時間にも調べ続けてしまうことがありました。
お客様のために真剣に考えることは大切です。ただ、すべてを一人で背負うのではなく、専門職として適切な距離を保つことも必要だと、今は感じています。

寝た状態では変化している。でも、お客様が知りたいのは日常の変化だった

Q. 「今日の指導はうまくいかなかった」と感じたセッションはありますか?

兒玉: 最近、ピラティスを担当したお客様とのセッションで感じました。
その方は、肋骨の開きや首が前に出る姿勢に悩んでいました。呼吸がうまくできていないなど、複数の問題があると考え、寝た状態で呼吸や肋骨の動きにアプローチしていました。
最初はほとんど動かなかった肋骨が、徐々に動くようになりました。そこで私が「だいぶ動くようになりましたね」とお伝えすると、お客様は「あれ、そうですか?」という反応でした。表情を見て、納得されていないことが分かりました。
そこで、「今、不安に思っていることや、気になっていることはありますか?」と聞きました。すると、「寝ているときは肋骨が動く感覚や、ウエストが締まる感覚がある。でも、起き上がって座ったり、立ったり、歩いたりしている日中には変化を感じられない」と話してくださいました。
その言葉を聞いて、私は寝た状態ばかりを見ていたことに気づきました。
人が日常で長く過ごすのは、立ったり、座ったり、歩いたりしている時間です。姿勢を改善したいお客様にとって重要なのは、寝た状態で動けることだけではなく、日常の中で変化を実感できることでした。身体の一部分だけではなく、お客様が実際に生活している状態まで見なければいけない。そう学んだ出来事です。
今は、一定期間通っていただいたお客様にも改めて悩みを聞き、「今、動かしにくい方向はありますか」「新しく気になっていることはありませんか」と、カウンセリングをし直すようにしています。

トレーナーに見える変化が、お客様にも見えるとは限らない

Q. その経験以降、説明の仕方にも変化はありましたか?

兒玉: はい。
トレーナーには分かる変化でも、お客様自身には分からないことがあります。「以前より良くなっています」と伝えるだけでは、お客様は「自分では分からないけれど、トレーナーがそう言うなら」と受け取るしかありません。それでは、不安が残ってしまいます。
今は、「以前はここがこの状態でしたが、今はこうなっています」「前はできなかったこの動きが、今はご自身でもできています」と、変化をできる限り具体的に伝えるようにしています。
専門家にとっての当たり前は、お客様にとっての当たり前ではありません。トレーナー側が理解しているからといって、説明を省いてはいけない。お客様自身が身体の変化を理解し、納得できることまで含めてセッションなのだと考えるようになりました。

良かれと思った知識が、相手には「重たい」こともある

Q. 知識や正しさを優先しすぎて、お客様の気持ちを置き去りにした経験はありますか?

兒玉: 前職の24時間ジムでは、そうした経験が多くありました。
専門的な知識を伝えれば、お客様の役に立てると思っていました。でも、お客様の中には、コンビニへ立ち寄るような感覚で気軽に運動したい方もいます。その方に専門的な説明をたくさんすると、内容が正しくても、重たく感じられてしまいます。詳しく教えてもらえて良かったと言ってくださる方もいましたが、そこまでの情報を求めていない方のほうが多かったかもしれません。
その経験があるため、eviGymでは「これが正しいです」「日常生活でも必ずこれをしてください」と一方的に伝えないようにしています。
まずは、お客様が無理なくできる範囲を見ます。反応を確かめながら、必要な情報を必要な分だけお伝えすることを意識しています。

苦しいと言えなかったお客様から学んだ、初回カウンセリングの大切さ

Q. お客様の離脱や来店が途切れた経験から、指導を変えたことはありますか?

兒玉: 「痩せたい」という目的で来られたお客様に、少し強度の高いHIITトレーニングを行ったことがあります。
それまでのセッションではスクワットなどを行い、3回目頃に「少し動かしていきましょう」とHIITを取り入れました。ところが、途中で呼吸が激しくなったため、すぐに休んでいただきました。そのとき初めて、その方から「走ったときにも、このようになることがある」と聞きました。初回のカウンセリングでは把握できていなかった情報でした。
私はカウンセリング不足だったと感じ、謝罪しました。その後、その方から予約が入ることはありませんでした。
セッション中には趣味の話もしていて、楽しく会話できていたと思います。だからこそ、あのトレーニングがとても苦しかったのではないか、でも苦しいと言えなかったのではないかと、今でも考えます。
その経験から、現在は初回のカウンセリングで、「走ったときに極端に息が上がった経験はありませんか」「学生時代のマラソンなどで、めまいや強い息苦しさが出たことはありませんか」と、過去の運動経験まで聞くようにしています。「今は大丈夫ですか」と聞くだけでは、最近運動をしていない方から必要な情報を得られないことがあります。
初めは低強度の運動から行い、スクワットが10回できるかなどを一つの目安にします。一つできたら、その次へ進む。段階を飛ばさず、少しずつ強度を上げるようになりました。
お客様のやる気があっても、身体が同じペースでついてこられるとは限りません。だから今は、初回で無理に頑張らせるのではなく、その方の過去と現在を丁寧に確認し、「これならできる」と思えるところから始めることを意識しています。

迷ったときは一人で決めず、トレーナー同士で考える

Q. 判断に迷ったときは、どのようにしていますか?

兒玉: 一緒に働いている市山トレーナーに相談することが多いです。「このようなお客様だったけれど、市山さんだったらどうする?」と意見を聞きます。
オンラインで狩野トレーナーと相談する機会もあり、肋骨の開きに悩むお客様へのアプローチなど、具体的なケースについて話してきました。相談して終わりではなく、その後のセッションでお客様にどのような変化があったかまで共有するようにしています。
自分一人の視点だけでは、見落とすことがあります。別のトレーナーの考えを聞くことで、新しい見方や伝え方に気づけます。トレーナーとして判断する責任は持ちながらも、一人で抱え込まず、周囲に相談することも大切にしています。

「続ける意味」は、人によって違っていい

運動が得意ではなく、勝つことや上達することだけを目的にせず、ただ「楽しいから」という理由でバドミントンを続けた兒玉トレーナー。その経験は、現在のお客様への向き合い方にも息づいています。

  • 結果を急がせないこと。
  • 周囲と比べないこと。
  • 正しさを押しつけないこと。
  • お客様自身が納得できる言葉で、変化を伝えること。
  • そして、最初に小さな「できた」をつくること。

運動を続ける意味は、誰かに決められるものではありません。
「大会に出られなくても、上手ではなくても、私は楽しいから続けられた」
兒玉トレーナー自身が持つその原体験があるからこそ、運動に苦手意識がある方や、自信を持てない方にも、同じ目線で寄り添うことができます。
運動が「やらなければいけないもの」ではなく、「自分のために、もう少し続けてみたいもの」になるように。
兒玉トレーナーは今日も、お客様一人ひとりの気持ちと身体を丁寧に見ながら、その人に合った一歩を一緒に探しています。